FC2ブログ

スポンサー広告

†フェルマータ†


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

フェルマータ*1*

2009.10.12  *Edit 

拝啓。

おげんきですか(って、元気な訳ありませんね)
天国でもピアノを弾いてらっしゃいますか。

僕は貴方に出逢わなければ、観客の拍手をもらえる喜びを知らなかった。
それはいくら感謝しても感謝しきれない。
あなたが教えてくれた「楽しい」「嬉しい」「面白い」という感情、忘れていませんよ。

おっと。そろそろ生徒が来るんだった。
それでは、今日の手紙はここまでにします。

7/7、あなたを最も尊敬する人より。


僕は分厚い日記帳にそれを書き込んだ。
ペラペラとめくると、全てが「あの方への手紙」になっていた。
いつか僕がそちらへ逝くことになったら、届けますね。
そう思いながら、日記帳を閉じて立ち上がった。

「先生、おはようございます!」
あの元気な声に、今日も教えなければ。あの方が教えて下さったことを。


♪ ♪ ♪ ♪ ♪


あの方はおっしゃった、その一言を述べてこの世から去られた。
「お前の人生は、フェルマータのように……だよ」
最後の言葉すら聞き取れずに、彼は亡くなられた。

僕はあの方を尊敬していた。
あの、縦横無尽とした旋律。あの方以外に、誰が弾いてのけるだろうか?
そしてあの方は、それを自慢しようともせず、小さなピアノ教室を開いていた。
世界的な公演に呼ばれようが、皇帝貴族の前で弾くことになろうが、いつもこう一言。
「ピアノはね、フォルティシモじゃ駄目なんだよ。ピアニシモだからこそ、演奏が映えるんだよ」


僕が三歳の頃だ。
あの方のピアノ教室に招かれたのは。

僕は元々、ピアノなんか好きじゃなかった。しかし、親が無理やりピアノに向き合わせた。
「やりたくない」
恐らく、幼い僕が最初に覚えた言葉ではなかろうか。
二歳十一ヶ月まで入っていたピアノクラブは、僕のだだこねに耐えきれずにやめさせられた。

そんななか、繋ぎの先生として出会ったのがあの方だった。

「こんにちは。私が今日から先生だよ」
あの方は細くて華奢な手を、僕の前に差し出した。ピアノに向いている、真っ白で細くて長い指。
「どうせ、ピアノを無理やりやらせるんだろう?」
しかし僕は、強い反抗心を剥き出しにして、初対面のあの方を睨みつけた。
覚えている。会った瞬間から今までのことを、完璧に、鮮明に。


ピアノに向かわせなければならないはずなのに、あの方はおっしゃった。
「じゃあね、音遊びでもしてみようか」

取り出したのは、ついさっき食べたであろう菓子パンの袋だ。
「なんだこれ?」
なぜ、ピアノにそんなものが必要なのだろうか。
僕は少し興味を持って、菓子パンの袋を膨らませたり絞ませたりした。


そうしていると、様々な音が聴こえた。
がさがさ何かの動く音や、空気の抜ける音。
それらが全て、自分で出している音だと気づくまでに、かなりの時間がかかった。

「ほら、こうしてみるともっと楽しいよ」
と、あの方は不意に、それを膨らませて――。
そう、見事に潰したのであった。


*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL
http://suiginntou1.blog38.fc2.com/tb.php/43-230b9a14

 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。